15年前、名古屋。
「兄ちゃん、私に貸してよ!」
「その呼び方やめてってつってんだろう。俺は理恵ちゃんの兄ちゃんじゃないから。」
15年前、事故にあった。理恵ちゃんと一緒に空き地で、授業の時使っていた蛙を遊んでいる時のことだった。人間にいじめられていられないから、蛙は俺の手から逃げ出した。それを見ると、理恵ちゃんが必死で蛙を追いかけていた。あいにく、突然バイクが来て、理恵ちゃんがそれを気付いてないが、俺は気づいた。
事故を理恵にはあわせないように、俺は事故そのものにあった。
幼いころの俺の面倒を見ていたおばあちゃんが、俺が事故にあったことを知って、現場にあわてて来て、命がけの傷なかったが、気を失っていた俺を入院させた。
お母さんによると、入院している間、理恵ちゃんは何度も見舞いしようとして来たが、おばあちゃんは理恵ちゃんをまだ責めていて、俺に会わせなかった。
これだけは覚えている。
一週間後、やっと退院できた。元気で学校に行った。が、理恵ちゃんがいつも座っていた隣の席が空いている。先生も出席を取る時、中島という理恵ちゃんの名字も呼んでいなかった。
「先生、理恵ちゃんは?」
「理恵ちゃん?あ、中島理恵花ね。松村君が入院してる間に、お父さんの転勤で海外に引っ越したよ。あれ?まだ聞いてないの?近所なんでしょう。」
おばあちゃんのせいだ。おばあちゃんのせいで理恵ちゃんが行ってしまった。おばあちゃんのせいでもう二度と理恵ちゃんに会えないかもしれない。おばあちゃん、大嫌い。
そのセリフ、一週間ずっと繰り返した。そのセリフしか言っていなかった。だから、父ちゃんが職場の東京に俺を連れて行った。
お正月の時など中学校に入る前にはおばあちゃんのとこ全然行きたくなかったけど、大人になったせいか、理恵ちゃんのこと、おばあちゃんが理恵ちゃんを責めていたことを忘れて、何もなかったことにした。まして、父ちゃんの仕事でまたここに戻らなきゃいけなくなったから、おばあちゃんに対してその程度ずっと取るとは気が済まない。
また、母さんから聞いた話だが、おばあちゃんは俺に嫌われていられなかった。俺が東京に住み始めて以来、ここに住み続けているおばあちゃんは理恵ちゃんの行方を探していた。やっと見つけたところだったが、理恵ちゃんを連絡していないまま、おばあちゃんは神様に呼ばれた。
その話はおばあちゃんが亡くなってから知ったことだった。
「何ボーとしてるんですか、兄ちゃん。」
理恵ちゃんが、ソファで横たわっている俺のそば、ま、そばというか、ソファから近いほうの床で座っている。で、距離すごく近いから、びっくりしてしまった。外はもう暗くなった。
「川崎さんと何の関係?」
うわ、いきなり質問を投げてしまった。あまりにも気になっていたから、ついにね。
「10年前、事故で両親亡くしてね…」
理恵ちゃん…
「で、川崎さんが未成年の私の保護者になってくれて、それ以来川崎さんのとこ。ま、ここにね。すごくやさしくしてくれてるの。」
悲しいことなんだろう、おばあちゃん。
「今回はね、直人ちゃん、あ、ご主人のね、先月中国で転勤することになってさ。あ、大学の事情で私は来週ついて行く。いい子として行かなきゃね。やっと兄ちゃんと会えたのにな~」
最後の文、何だか知らないが、理恵ちゃんはそれを言いながら視線をそらした。
理恵ちゃん達はその残りの一週間、最後の国内旅行に過ごす予定だそうだ。